
高齢者入居は“最終手段”ではない
築年数が古く、人気がなくなったアパート。家賃を下げても空室が埋まらず、最終的に「高齢者でもいいから入れておこう」と、受け入れ始めた結果――
気づけば入居者の大半が高齢者になっていた。
このような物件は、全国の地方都市で少なくありません。
しかし、これは決して“戦略的な高齢者受け入れ”とは言えず、貸す側も借りる側も「妥協」で成立しているケースが多いのが現実です。
一方で、「もう少し家賃を払ってでも、安心して住める部屋に住みたい」――そんな”中間ゾーン”の高齢者ニーズ”は、明らかに存在しています。
それにもかかわらず、彼らが安心して住める物件がほとんど市場に存在しないという、大きなミスマッチが生じています。
本記事では、高齢者入居を前向きに取り入れることで、家賃を下げずに空室対策を進める方法や、リスクを抑えて安定経営を実現する具体的な手法をご紹介します。
高齢者の賃貸ニーズはなぜ伸びているのか?
自立した高齢者の住み替え需要が増加中
日本は高齢化が進み、特に「元気なまま一人暮らしを選ぶ高齢者」が急増しています。
長年住んだ持ち家を手放し、もっと便利な場所でコンパクトに暮らしたいというニーズが顕在化しています。
実際、65歳以上の高齢者の約80%以上は要介護・要支援認定を受けておらず、自立した生活を送っています。
こうした層は、賃貸住宅に住み替えたいと思っても「選択肢がない」ことに困っているのです。
高齢者が賃貸住宅に求める条件とは?
- 病院・スーパー・交通機関に近い便利な立地
- 段差がなく安全な設計(バリアフリー)
- 何かあった時に安心できる「見守り」体制
とくに「高齢者専用」である必要はなくても、「安心して住める配慮」があるだけで、彼らにとっては非常に大きな選択理由になります。
地方アパート市場における課題と現実
空室は多いのに、高齢者が住める部屋は少ない
地方都市では、空室率が高い一方で、高齢者の住まい探しが困難という矛盾した状況があります。
その理由は、既存の築古物件が高齢者の生活に配慮されておらず、「入りたくても入れない」状態になっているからです。
さらに、高齢者が賃貸契約を申し込んでも、「孤独死のリスクがある」「家族の見守りが難しい」といった理由で断られてしまうことも少なくありません。
サラリーマン大家にとっての不安材料
- 孤独死が起きたらどうしよう…
- 管理や対応に手間がかかるのでは?
- 特別な設備投資が必要なのでは?
こうした不安から「高齢者はリスクが高い」と感じ、受け入れを避けているオーナーも多いでしょう。
しかし、これらの課題はリスク管理と制度活用によって、十分にカバー可能です。
実はニーズがある“中間ゾーン”を狙え
中間層高齢者の賃貸ニーズは“そこそこ良い住まい”
高齢者の賃貸ニーズには「激安でも構わない」という層だけでなく、
「ある程度の家賃を払っても、住みやすくて安心できる部屋に住みたい」という層が存在します。
ところが、キレイめな物件は若年層をターゲットにしているため、高齢者に合った物件がほとんど供給されていないのです。
「ちょっとキレイで、ちょっと安心」それだけで選ばれる
- 段差をなくす
- 床材や照明を明るくする
- 浴室をまたぎやすいものに変更する
といった簡単なリフォームで、入居検討の土俵に乗せることは十分可能です。
若者に人気のない「1階」や「和室」は、高齢者にとってはむしろ好条件な場合もあります。
築古物件でも高齢者向けリノベで家賃UP|成功のポイントとは?
築年数が古くても、高齢者が安心して暮らせる設備や環境を整えれば、物件の魅力は格段に向上します。
大がかりな工事をしなくても、
- 室内の動線を広くする
- 手すりや照明を追加する
- 定期的な声かけや安否確認の体制を整える
これだけで、「選ばれる物件」になる可能性が十分あるのです。
サラリーマン大家が取り組むべき3つの優先ステップ
① 最初の1部屋だけ“高齢者向け改修”をしてみる
全室をリノベーションする必要はありません。
まずは1階の1室だけ、段差解消や見守りサービス導入などを施してみましょう。
実験的に取り組むことで、入居者の反応が見えてきます。
② 孤独死・審査の不安は制度でカバーできる
- 保証会社の高齢者対応プラン
- 見守りセンサーや通知システム
- 居住支援法人との連携
これらを組み合わせることで、大家側の不安も、家族側の不安も軽減できます。
③ 高齢者を“歓迎する”空気を物件に持たせる
「高齢者入居可」「ご家族との相談可」「見守り体制あり」
こうした情報を募集チラシやネット掲載時に明記するだけで、他物件との差別化になり、安心感を生む効果があります。
実例紹介|古アパートを“高齢者向け”に活かした成功事例
築30年の木造アパート。若者には見向きもされず、1階2室が長期空室だった物件。
そこで、1階の1室だけを可能な限り段差解消・浴室改修・LED照明・人感センサー導入など、ミニマムな改修を施しました。
結果、家賃を下げずに契約が決まり、さらに入居者の親族から「近くで探している人がいる」と紹介が生まれ、2室ともすぐに埋まりました。
この物件では、その後の募集でも「高齢者専用ではないが高齢者歓迎」の文言が効果を発揮し、安定した入居が続いています。
高齢者向け賃貸は、これからのアパート経営の標準になる
空室が続く今だからこそ、高齢者入居は「戦略」として選ぶ時代です。
これが、地方アパート経営の新しい常識です。
- 設備も工事も、少ない投資から取り組むことが可能
- 1部屋からでもはじめられる
- 家賃を下げなくても選ばれる可能性がある
そしてなにより、こうした取り組みは、これからの高齢化社会に必要とされる“住まいのインフラ”としての価値を持っています。
サラリーマン大家だからこそ、小さく始めて、大きな信頼を積み上げていける。
次に空室が出たとき、少しだけ高齢者の目線で物件を見てみると、まだ誰も狙っていない「伸びる市場」が広がっているかもしれません。