
サラリーマンとしての安定収入だけでは将来が不安――そんな背景から、不動産投資を副業として検討する人が増えています。なかでもアパート経営は「安定収入の仕組み」として魅力的に映りますが、リスクを甘く見てしまうと、期待していたキャッシュフローが崩れ、精神的にも経済的にも苦しくなる可能性があります。
今回は、地方都市で10年以上アパートマンション管理に携わってきた立場から、アパート経営における代表的な3つのリスク――空室・修繕・災害――をどのように見極め、どう対策すべきかについて実務ベースでお伝えします。
空室リスク|収益を直撃する最も身近なリスク
どれだけ表面利回りが高くても、入居者が決まらなければ絵に描いた餅です。空室が続けば家賃収入はゼロ、ローン返済は自己資金から行わなければなりません。
入居者ニーズとズレた物件は決まらない
地方都市における賃貸物件選びでは、都市部と異なる判断基準が重要になります。都心では「駅から徒歩◯分」が物件選びの最優先条件になりがちですが、地方ではそもそも電車が日常の足ではない地域が多く、駅近という要素はそれほど大きな決定打にはなりません。その代わりに重視されるのが、「駐車場の有無」や「2台目駐車場の有無、並列駐車か縦列駐車か」「間取りの使いやすさ」「生活動線上の便利さ」といった、実際の暮らしやすさに直結する条件です。
にもかかわらず、都市部と同じ感覚で「利便性=駅近」と考えたり、競合物件に比べて車が停めづらかったり、需要が少ないのに1Kやワンルーム中心の間取り構成を選んだりすると、ターゲットとなる入居者のニーズから大きく外れてしまいます。たとえば、駐車場が1台もない物件や、ファミリータイプなのに2台目が敷地外でしか取れない物件、キッチンとリビングが分かれた古いDKタイプの間取りは、地方の若年層やファミリー層からは敬遠される傾向にあります。こうしたニーズとのズレが、空室が埋まらない最大の原因になることも少なくありません。
地方物件では、「地域の暮らし方に合った設備・間取り・家賃設定」がすべての軸になります。その地域の入居者がどんな暮らしをしているか、どんな設備を望んでいるのかを的確に捉えられない限り、どれだけ条件の良い物件でも空室リスクを抱えることになります。入居者目線で柔軟に考え、地域に溶け込む物件選びこそが、地方都市での賃貸経営成功の第一歩と言えるでしょう。
空室リスクが表面化した失敗例
ある投資家が、築30年を超える中古アパートの1LDK物件を購入しました。2DKだった間取りをLDKに変更していたものの、水回りは当時のままでリフォームされておらず、見た目にも古さが残る状態でした。物件価格が手頃で、表面利回りも高かったため、十分な現地調査をせずに即決してしまったのです。
しかし実際には、そのエリアでは「清潔感のある新しめのLDK物件」が若い世代からの支持を集めており、築古の雰囲気が目立つ物件は見向きもされませんでした。さらに、駐車場が1台分しかなかったことも大きなネックとなり、ファミリー層からも敬遠される結果に。ターゲットとなる入居者層のニーズを捉えきれておらず、結果的に、入居希望者は家賃を抑えたい高齢者層のみという構図になってしまいました。
しかし、その層にとっては、むしろ和室の残る2DKの方が好まれる傾向が強く、リノベーションの方向性がニーズと合っていなかったことが仇となりました。結果として、購入から1年が経過しても満室には至らず、当初想定していた利回りには遠く及ばない運用となってしまったのです。
空室対策には「地域のニーズをつかんだ柔軟な対応」が不可欠
空室期間をできるだけ短くするためには、地域の入居者ニーズを的確に把握し、それに応じた対応をとることが重要です。家賃設定の見直しや間取りの工夫、初期費用の調整、物件写真のブラッシュアップといった取り組みは、入居希望者の印象を大きく左右します。
こうした判断は、現場での反応をよく知る管理会社がいれば心強いものですが、オーナー自身が主体的に情報を集め、改善策を実行することももちろん可能です。どちらの運営スタイルであっても、地域性を読み取り、入居者目線で柔軟に調整していく姿勢こそが、空室対策の鍵を握ります。
修繕リスク|築年数が経つほど無視できないコスト
アパート経営において、修繕費用は避けて通れない現実です。築年数が古くなると、共用部の外壁塗装や屋根修理、水回り設備の交換など、高額な工事が必要になることも少なくありません。
修繕費を甘く見ると、思わぬ出費に苦しむ可能性も
たとえば、築25年程度の木造アパートを「安くて利回りが高そう」と判断して購入した場合、一見お得に見えても、後になって大きな修繕費がのしかかる可能性があります。外壁にチョーキングが見られ、防水工事が必要になったり、給湯器などの設備が次々と寿命を迎えると、数百万円規模の出費が重なることも珍しくありません。
もしそうした出費を想定せずに投資してしまうと、資金繰りが悪化し、ローンの返済が苦しくなる恐れもあります。最悪の場合、運営を断念し売却を検討せざるを得ない状況に追い込まれることも考えられます。
修繕積立計画が「命綱」になる
アパート経営において、購入時の初期費用や月々の収支だけを見て安心してしまうのは大きな落とし穴です。物件というのは年数とともに確実に老朽化していくものであり、それに備えた修繕計画を立てていないと、突発的な出費に対応できず、経営そのものが立ち行かなくなるリスクさえあります。
とくに外壁塗装や屋根の防水、給湯器や給排水設備の更新といった大規模な修繕は、10年、15年といった節目に発生しやすく、1回ごとの費用も数十万〜数百万円にのぼることがあります。これを自己資金からいきなり支払うのは困難なため、あらかじめ年単位で修繕費を積み立てておくことが、経営の“命綱”になるのです。
さらに、地方物件には地方ならではの劣化リスクもあります。たとえば、日当たりが良すぎる立地では、屋根材や外壁材が強い紫外線を浴び続け、想定より早く劣化するケースがあります。逆に、風の通りが強い場所では風雨による傷みや構造材への影響も大きくなることがあります。
また、地域によっては降雪や多雨、高湿度、長時間の日照といった気候特性が、屋根・外壁・基礎部分の劣化を加速させる要因になります。こうした地域性によるリスクを正確に読み取るには、事前の建物調査や周辺地域の修繕履歴を確認しておくことも重要です。
将来の修繕費を見据えずに「表面利回りが良いから」と飛びついてしまうと、数年後に多額の出費がのしかかり、家賃収入を食いつぶしてしまうことになりかねません。利回りの中から毎月いくらを修繕積立に充てるのか、初めからシミュレーションしておくことが、堅実なアパート経営の基盤となります。
災害リスク|想定外の事態に備える「守り」の視点
近年、地震や台風、大雨による浸水といった自然災害のリスクが全国的に高まっています。特に地方都市では河川の氾濫や山間部での土砂災害といったリスクが顕在化しており、立地選びから災害対策を含めて検討しなければなりません。

想定外の自然災害で家賃収入ゼロになる可能性も
賃貸経営において、自然災害は予想を超えるリスク要因です。特に地方では、台風や豪雨、地震、積雪といった地域特有の自然条件によって、思わぬダメージを受けるケースもあります。
たとえば、台風による河川の氾濫で1階部分が水没し、全戸が一時的に退去せざるを得なくなったという例も報告されています。この場合、火災保険や水災補償で修繕費用はまかなえたものの、復旧までの数ヶ月間、家賃収入はゼロに。そうなれば修繕の手配や入居者対応などに追われ、オーナーは精神的に疲弊してしまいます。場合によってはその後の経営継続が困難になる可能性もあるでしょう。
また、築年数の経った木造物件では、地震による構造的な損傷が見えにくく、見逃されがちな点もリスクのひとつです。たとえ目立った痕跡がなくても、外壁の亀裂や基礎のズレが後々の大規模修繕に繋がることもあります。
そのほかにも、大雪による屋根の破損や凍結による配管の破裂、豪雨による土砂流入など、地域特有の気候条件が原因となる災害リスクは数多く存在します。いずれも、自然災害によって一時的に家賃収入が断たれる可能性があることを念頭に置いておく必要があります。
ハザードマップと地元情報の重要性
物件購入時には、ハザードマップの確認は必須のプロセスです。国土交通省や各自治体が公開しているハザードマップでは、そのエリアが過去にどのような自然災害リスクにさらされてきたか、あるいは**今後想定される災害(洪水・土砂災害・津波・地震による液状化など)**が視覚的に確認できます。
たとえば、川や海の近くに位置する物件が「想定浸水区域」に含まれているかどうかを知ることで、浸水被害への備えや保険加入の判断材料になります。また、土砂災害警戒区域にかかっている土地は、購入後に大規模な擁壁工事が必要になることもあるため、事前の確認が非常に重要です。
しかし、ハザードマップはあくまで「行政が想定する最大リスク」に基づいた予測図であり、実際の災害履歴や微妙な地形特性までは反映しきれていない場合もあります。たとえば「地図上ではギリギリ警戒区域外だが、実際には大雨のたびに道路が冠水する」など、リアルな情報は地元の管理会社や古くからその地域にいる不動産会社でないと得られないことも多いのです。
そのため、ハザードマップの内容をベースにしつつ、地元の業者に「この物件周辺で過去に水が出たことはありますか?」「隣地で過去に土砂崩れがあったと聞いたことがありますか?」と聞くなど、実地に足を運んで確かめることが何よりのリスク対策になります。
また、ハザードマップの情報は住宅ローン審査や保険料の決定にも影響することがあります。とくに最近では、保険会社がリスクエリアに該当する物件に対して補償条件を厳しくしたり、割増保険料を設定したりする動きもあります。金融面から見ても、ハザードマップの確認は「災害リスク」と「資金計画」の両面において避けて通れないポイントです。
火災保険・地震保険の見直しも忘れずに
災害リスクに備えるうえで、火災保険や地震保険への加入は必須です。ただ加入していれば安心というわけではなく、補償内容が現状に合っていなければ、実際の被害発生時に修繕費をカバーできず、大きな損失を招く恐れがあります。特に、建物の評価額が築年数の経過とともに変動している場合、補償額が過小になってしまうケースもあります。
また、特約の内容にも注意が必要です。例えば「家賃補償特約」や「施設賠償責任特約」などを付けておけば、入居者が退去した場合の家賃損失や、施設の不備で事故が起きた際の損害賠償にも備えることができます。水災や風災、孤独死など、地域や物件の特性に応じた補償を追加することも重要です。
保険契約は一度入ったら終わりではありません。物件状況や周辺環境の変化に応じて内容を見直すことが、災害リスクへの現実的な備えにつながります。
リスク管理こそが、アパート経営成功の本質
アパート経営に「絶対安全」はありません。空室・修繕・災害のいずれのリスクも、事前にどれだけ対策を打てているかで結果が大きく変わります。安易に「利回り」や「価格の安さ」だけで判断せず、実際の運営を見据えた現実的な視点で物件選定と管理を行うことが、長期的な成功に繋がります。